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OSSと国家:政治と開発者の距離感の歴史

オープンソースソフトウェア(OSS)は、その誕生以来、国家(政府)とのさまざまな関わりを持ってきました。各国政府がOSSを支援した政策的な歴史、NSAによるSELinux提供やFSF(Free Software Foundation)/GNUプロジェクトの思想的対立、さらにOSSが外交や安全保障の文脈で利用された事例など、OSSと政治・国家権力の距離感は時代と共に変遷しています。本記事では、OSSと国家の関係史を振り返りつつ、開発者コミュニティが政治とどう向き合ってきたか、その倫理観・文化の変遷を探ります。最後に、国家に依存しないOSSモデルの意義について、自動売買AI「bitBuyer 0.8.1.a」の構想に触れながら考察します。

各国政府によるOSS支援の歴史と事例

世界各国では1990年代末以降、OSSを推進・利用するための政策が次々と登場しました。米国では早くから政府調達や政策にOSSを取り入れています。例えば2009年、オバマ政権は「オープン政府宣言」を掲げ、連邦政府のウェブサイト構築にDrupal(OSSのCMS)を採用しました。また2016年には連邦政府のソースコード方針(Federal Source Code Policy)を制定し、各省庁が新規に開発するソフトウェアの少なくとも20%をオープンソースとして公開することを義務付けました。さらに2022年、米国防総省は「まず既存の政府ソリューションかOSSを採用し、それで不足する場合のみ商用(プロプライエタリ)製品を購入せよ」という調達ガイダンスを公式に打ち出し、OSSをプロプライエタリソフトより優先採用する方針を明確化しています。これらの動きは、政府がコスト削減や技術の透明性確保のためOSS利用を推進してきた例と言えるでしょう。

ヨーロッパでもEUおよび加盟各国でOSS推進策が取られてきました。EUレベルでは2000年代に「欧州オープンソース観測所(OSOR)」が設立され、公的機関が開発・利用したOSSを共有・再利用できるよう支援しています。各国でも、例えばフランスでは国家憲兵隊が2000年代後半にWindowsからLinux(Ubuntuベースの独自ディストリビューション「GendBuntu」)への大規模移行を行い、2004~2008年でソフトウェアライセンス費用約5000万ユーロを削減しました。ドイツでもミュンヘン市が2003年に市役所PCをLinux(LiMux)へ移行するプロジェクトを開始し、互換性問題など曲折はあったものの、最終的に数百万ユーロ規模の節約効果を報告しています。スペインのアンダルシア州は独自Linuxディストロ(Guadalinex)を開発するなど、公的部門でOSSを活用する動きが各地に広がりました。これら欧州の事例は、OSSによってライセンス費負担を減らし予算を有効活用すると共に、行政サービスのデジタル基盤で特定ベンダーへの依存を低減する狙いがありました。

日本でも2000年代から政府主導のOSS普及策が取られています。2004年には経済産業省が「オープンソース・ソフトウェア活用促進」関連の提言をまとめ、続く2006年には独立行政法人情報処理推進機構(IPA)内に「オープンソースソフトウェア・センター(OSSセンター)」を設立しました。OSSセンターでは「普及促進・基盤整備・情報発信」の3本柱で活動し、OSS情報データベース「OSS iPedia」の開設やOSS導入事例の紹介などを行いました。こうした官民連携による支援により、自治体のOSS採用(例:一部自治体でのLinuxやOpenOffice導入)も進みました。もっとも、日本ではOSSの強制使用といった極端な政策は少なく、あくまで技術中立の立場で「OSSも選択肢に含める」「導入ノウハウを共有する」といったソフトな推進策が中心でした。

中国ではOSS推進が国家戦略と結びついて展開されてきた点が特徴的です。2000年代初頭、国家主導のプロジェクトとして中国科学院が政府資金で「紅旗Linux(Red Flag Linux)」開発をスタートし、Microsoft Windowsを国産OSSで置き換える試みが行われました。これには海外製ソフトへの依存を減らし自国のソフトウェア産業を育成する目的がありました。その後、中国政府はオープンソースコミュニティの形成にも関与し、各種「OSS連盟」の立ち上げや企業・開発者の協会設立を後押ししました。特に2008年の世界金融危機以降、コスト削減ニーズも相まってLinux採用が本格化し、2011年頃からAndroidスマホの普及もOSS文化醸成に寄与しました。2014年には工信部(工業和信息化部)がクラウド基盤OSSのOpenStackを公式に支援すると表明し、国有企業にその採用を促すなど、政府自らOSS技術の採択を推進しています。こうした政府の支援の結果、現在中国はOSS利用企業の割合が非常に高く(ある調査では企業の87%が何らかのOSSを利用)、GitHub上のアクティブユーザー数では米国に次ぐ世界第2位を占めるまでになりました。中国政府にとってOSSは産業政策上の道具であり、米国の輸出規制が強まる中で海外技術への依存を減らす戦略的手段と位置付けられています。実際、Huawei社が米国の制裁でAndroid使用不能になった際、自社開発OSであるHarmonyOSをオープンソース化して切り抜けようとするなど、OSSは経済安全保障の文脈でも重要性を増しています。

ロシアもまたOSSを国家のデジタル自立に繋げようとする動きを見せてきました。2010年には当時のプーチン首相がロシア政府機関のシステムを2012年までに順次Linuxなどのフリーソフトウェアへ移行する計画に署名し、政府主導で「国家OS」開発プロジェクトが立ち上げられました。この計画は必須ではなく各機関の任意採用でしたが、年間100億ルーブルの予算枠が組まれるなど国を挙げた試みでした。また2014年のクリミア併合を巡る制裁以降、ロシア政府は米国製ソフトからOSSへの切り替えを加速させています。例えばロシア保健省は2014年、MicrosoftやOracle製品をLinuxやPostgreSQLに置き換える方針を発表しましたが、これは制裁で米企業に打撃を与える狙いもあったと報じられています。国防分野でも、2018年には軍事機密情報を扱えるロシア製Linuxディストリビューション「Astra Linux」の導入が始まりました。Astra Linuxは「特別重要(最高機密に相当)」データの処理認証を受けたOSであり、軍や安全保障機関におけるWindows代替として開発・採用が進められています。このようにロシアでは、西側ソフトへの依存を減らすことでデジタル主権を確立しようという政策意図が明確に見て取れます。

以上のように、各国でOSS支援策が講じられてきた背景には、それぞれモダナイゼーション(行政サービスのデジタル化)、コスト削減、技術革新の促進、そして産業競争力・安全保障といった目的があります。ある調査によれば、政府がOSSを採用・推進する主な理由として「電子政府化や相互運用性向上などの近代化」が最も多く、次いで「国内産業育成」、そして「ライセンス費節減」が挙げられています。特に南米では「技術主権」の文脈でOSSへの期待が強く、欧米ソフトの独占からの脱却を目指す動きが早くから見られました。実際、ベネズエラは2004年に公共機関でのOSS優先利用を定める法令を制定し、独自のLinuxディストロCanaimaを開発するなど積極的な事例もあります。全体として、1999年から2022年にかけて世界で少なくとも669件ものOSS関連政策イニシアチブが確認されており、2003年に最多の58件とピークを迎えた後も年平均30件近い政策が各国で検討・導入され続けています。その大半は「OSS利用を推奨・奨励する声明やガイドライン」「OSS導入のための研究・調査事業」「政府主催のOSSカンファレンス」など、OSS普及を後押しする支援的な内容です。一方で「OSS使用を義務化」する強制的な政策はごく一部(全体の数%)に留まり、多くの政府は特定の技術へ固定化しない技術中立の立場を維持しつつ、OSSのメリットを生かそうと模索してきたと言えます。

NSAとFSF/GNU:OSSを巡る国家権力との交差点

OSSの歴史には、国家権力と直接交差する象徴的な出来事も存在します。その一つがNSA(米国家安全保障局)によるSELinuxの開発・提供です。NSAは高度なセキュリティ要件に対応するため、Linuxカーネルに強制アクセス制御の機能を追加したSecurity-Enhanced Linux(SELinux)を開発し、2000年12月にそのソースコードをオープンソースとして公開しました。当時、政府機関が自ら開発したセキュリティ技術をOSSコミュニティに寄与するのは画期的であり、SELinuxは2003年にはLinux本流に統合され現在ではRed Hat系ディストリビューションやAndroidにも標準搭載されるなど広く利用されています。NSAという国家機関がOSSに関与したこの事例は、一見すると「OSSと国家の協調」に映ります。しかし皮肉にも、NSAは同時期に大規模な通信傍受(いわゆるPRISM計画など)で批判を浴びた組織でもあり、OSSコミュニティ内には「NSA提供のコード」に不信感を示す向きもありました。当初SELinux採用を躊躇する開発者もいましたが、結果的には公開コードであるがゆえに広範なレビューが行われ、安全性が確認されて普及した経緯があります。NSAの例は、国家がOSSコミュニティへ直接技術提供しうること、そしてOSSの透明性ゆえに例え提供者が諜報機関でもコードを検証可能だという点を示したと言えるでしょう。

一方、FSF(自由ソフトウェア財団)とGNUプロジェクトの存在は、国家や企業のソフトウェア支配に対抗する思想的運動としてOSS史に深い足跡を残しています。リチャード・ストールマン(RMS)によって1983年に始められたGNUプロジェクトと、1985年設立のFSFは、「ソフトウェアの利用者にソースコードを入手・改変・再配布する自由を保障すべき」とするフリーソフトウェア思想を提唱しました。ストールマンは「プロプライエタリ(非自由)ソフトウェアはユーザーの自由を踏みにじるものであり、それ自体が社会問題である」と主張し、国家はこの問題に対処すべきだとまで述べています。彼にとってソフトウェアの自由は技術論ではなく政治・倫理の問題でした。この立場から、FSFは各国政府にも働きかけを行っています。例えばストールマンは各地で講演や提言活動を行い、「行政や教育機関こそ率先してフリーソフトを使うべき」と説いてきました。彼は政府が自らフリーソフトを使うことは「計算機主権(computational sovereignty)」の確立に必要であり、国家が民間企業製ソフトに依存しすぎることは安全保障上もリスクになると警告しています。具体的な提言として、「政府調達で開発させるソフトウェアは必ずフリーソフトとして公開させること」「学校教育で非自由ソフトを教えることを禁止すること」「公的Webサービスはすべて利用者がフリーソフトのみでアクセスできる形にすべきこと」等、多岐にわたる政策アイデアを示しています。これらは一種の政府へのロビー活動とも言え、実際に欧州などで公共調達の際にOSSを優先する動き(「Public Money, Public Code」のスローガンに象徴されるキャンペーン)はFSF系団体やオープンソース推進派の啓発が後押しした面があります。

FSF/GNUと国家の関係はしばしば緊張も孕みました。1990年代には米国でソフトウェア特許や暗号技術規制の問題が浮上し、FSFや開発者コミュニティはこれに反対する政治運動を展開しました。例えばソフトウェアの特許に関しては「イノベーションを阻害する」として欧州議会への働きかけが行われ、一部成果を収めています。またDRM(デジタル著作権管理)技術を巡っては、米国DMCA法への抗議活動(Defective by Designキャンペーン)なども実施されました。このように、FSFは当初より政治的アクティビズム色が強く、国家権力によるソフトウェア利用者の権利制限に抗う立場を鮮明にしてきたのです。

しかし1998年に「オープンソース」という用語が誕生し、ビジネス界がOSSの価値に注目し始めると、FSFの思想と一線を画す動きも出てきました。オープンソース推進派(OSI: Open Source Initiative)はあえて政治色を薄め、企業や政府とも協調しやすい「実用本位」の文脈でOSSを普及させようとしました。この違いは、例えばライセンス面ではGPL(ストールマンの作ったコピーレフト・ライセンス)が利用者の自由を守るため厳格な再配布条件を課すのに対し、オープンソース派は企業フレンドリーな緩やかなライセンス(ApacheやMIT Licenseなど)を好むといった形で表れました。結果として政府も、理念先行のフリーソフト運動よりは、現実的なOSS活用論に歩調を合わせてきた面があります。各国政府のOSS採用理由に「透明性」や「主権」が掲げられることはあっても、「ソフトウェアはユーザーの自由のため公共財であるべき」といったFSF的イデオロギーが前面に出ることは少ないのが実情です。

OSSと外交・安全保障:デジタル主権のツールとして

OSSはまた、外交戦略や経済安全保障の文脈でも活用・言及されてきました。前述したように、中国やロシア、南米諸国など多くの国が「デジタル主権」(技術的自律)の確立手段としてOSS採用を位置付けています。これは「他国企業が提供するブラックボックスなソフトウェアではなく、自国でコードを把握・改変できるOSSを使うことで、安全保障上のリスクを減らす」という考えです。実際、エドワード・スノーデンによる2013年の暴露で米国NSAが各国首脳の通信まで傍受していたことが明らかになると、ブラジルやドイツをはじめ各国政府で通信インフラやソフトウェアをOSSに置き換える検討がなされました(ブラジルでは国家研修用メールシステムにOSS採用、ドイツ外交官もPGP暗号の使用推奨などの動きが報じられました)。OSSはソースコードを検証できるため「バックドア(裏口)」の混入リスクを抑えられるという期待があります。透明性はOSSの大きな利点であり、政府調達でも「OSS利用で政府ITシステムの透明性・信頼性向上」といった目的が掲げられることがありました。

また、OSSはしばしば国際協力やソフトパワーの道具としても機能します。例えば米国は「インターネットの自由」を促進する外交政策の一環で、TorやSignalといった検閲回避・暗号通信ツール(いずれもOSS)の開発に資金援助してきました。これにより抑圧的政権下の市民が安全に情報発信できるよう支援するという、人権外交的な側面を持たせています。一方で中国は「一帯一路」のデジタル版とも言える形で、途上国に自国発のOSSソリューション(例えば中国製OSSクラウド技術など)を提供し影響力拡大を図る動きも指摘されています。OSSは基本的に誰でも使えるため、技術援助や標準押さえの手段として提供しやすいのです。実際、欧州委員会もアフリカ諸国との協力でOSSを活用した行政サービス向上プロジェクトを展開するなど、「OSS外交」とも呼ぶべき取り組みが散見されます。

経済安全保障の観点では、OSSはサプライチェーンの安定化にも寄与します。特定企業の製品に依存していると、その企業が提供を停止した場合に困りますが、OSSならコミュニティや他企業がフォーク(派生開発)して継続可能です。米国防総省がOSSを優先採用する指針を出した背景にも、ソースが公開されたコンポーネントを積極活用し自前開発コストを削減すると同時に、ベンダーロックインを回避した柔軟な体制を築きたい狙いがありました。OSS活用により民生ソフトの技術を迅速に軍事転用(Dual Use)できるという利点もあります。実際、米軍はLinuxを早期から採用し、2000年代には原潜のソナーシステムや無人機制御にもLinuxベースのソフトを利用しています。

他方で、OSSのグローバルな普及は各国の外交摩擦を生むこともあります。例えば米国による対中・対ロ制裁がIT分野に及ぶ中で、「制裁国の開発者がOSSコミュニティに参加することを禁止すべきか?」という議論が生じました。しかしオープンソースの国際的なライセンスは基本的に利用者の国籍や用途による差別を禁止しており、GitHubなどプラットフォームも国連制裁対象でない限り開発者個人のアクセスを制限しない姿勢を取っています(※米国企業としての法令遵守上、クリミア・イラン・北朝鮮など一部地域からの利用制限はありますが、それ以外は各自OSSライセンスに基づく自由利用が建前です)。2022年のロシアによるウクライナ侵攻時には、ある種の“民間制裁”としてOSS開発者が独自に動く事態も起こりました。プロテストウェアと呼ばれるもので、ロシア・ベラルーシのIPから実行された場合にPC内のファイルを消去する悪意あるコードをOSSライブラリに紛れ込ませた例が報告され、OSS利用者らに大きな衝撃を与えました。多くのプロテストウェアは画面に反戦メッセージを表示する程度でしたが、少なくとも一つのプロジェクトでこうした深刻な破壊的コードが追加されていたことが判明し、ロシア国内では「当面ソフトウェア更新を停止し、どうしても必要な場合はソースコードを精査してから適用せよ」という勧告まで出されています。この出来事はOSSコミュニティに中立性と倫理に関する激しい議論を巻き起こしました。従来、OSS開発者の多くは政治的立場に関係なく「良いコードは良いもの」として受け入れる文化を醸成してきましたが、プロテストウェア騒動はオープンソースに政治的意思表示を持ち込む是非を問いかけたのです。

開発者コミュニティのスタンス:政治への距離と倫理観

OSS開発者たちは歴史的に、基本は政治から距離を置いた中立的立場を好む傾向がありました。これは国籍や組織に関係なく協力し合うオープンコミュニティの性格上、特定の政治思想や国家利益を持ち込めば対立を生む恐れがあるためです。リーナス・トーバルズ(Linuxカーネルの創始者)は技術議論に集中するようコミュニティに求め、政治的アジェンダの持ち込みを嫌ったことで知られます。またOSIによるオープンソースの定義でも、「誰でもどんな目的でもソフトを利用できること」(利用する人や分野を差別しないこと)が明文化されており、例えば「軍事利用を禁止する」「政府による利用を禁止する」といった条件を課したライセンスはオープンソースと認められません。このようにOSSの理念は中立性・普遍性を重視しており、開発者個人も政治より品質や機能を重んじてきたのです。

しかし近年、そのスタンスにも変化の兆しが見られます。前述のプロテストウェアのように、あえてOSSを政治的抗議手段として使う開発者が現れたことは象徴的です。また「倫理的なOSSライセンス」を模索する動きも一部で起きました。例えばある開発者グループは自分たちのOSSを人権侵害に関与する企業・政府に使わせたくないとして、利用者に倫理基準への同意を求める独自ライセンスを提案しました(※もっとも、OSSの国際的な認定団体であるOSIはこの種のライセンスをオープンソースとは認めていません)。他にも、米移民税関捜査局ICEによる移民収容に抗議してOSSライブラリからその機能を削除したケースや、中国の過酷なIT労働慣行「996問題」への抗議として利用許諾に制限を加えたAnti-996ライセンスの出現など、開発者がソフトの利用条件に自らの倫理観を反映させようとする事例が散発しています。

これらは従来の「ライセンスは中立的であるべき」という考え方への挑戦であり、コミュニティ内でも賛否が割れています。賛成派は「オープンソースも社会の一部であり、重大な人権侵害や戦争に無関与でいるのは無責任だ」と主張します。一方、反対派は「OSSは誰にでも開かれているからこそ価値がある。利用目的で差別し始めればOSSの根幹が崩れる」と懸念を示します。例えばLinuxカーネルコミュニティでは、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア人開発者からのパッチを受け入れるかどうか議論になりましたが、最終的には政治と開発は切り離し、純粋に技術的貢献として扱う方針が維持されました。もっとも、国際制裁など現実の政治状況が開発者個人に及ぶケースもあり、オープンソースプロジェクトへの企業スポンサーが地政学リスクから撤退する(例:ロシア在住の主要メンテナーが資金支援を失う)といった影響は避けられません。

このようにOSS開発者コミュニティの文化・倫理観は動的に変化しています。創生期のハッカー文化はリバタリアン的とも評される「権威への反骨精神」と「自由な知識共有」に支えられていましたが、OSSが社会インフラとなった現在、開発者もより複雑な倫理的責任を意識するようになりました。今後、国家や政治との距離感についても「一切関与しない中立路線」と「積極的に意思表明する路線」のせめぎ合いが続くでしょう。そのバランスを見出すことが、OSSコミュニティの次なる課題と言えます。

国家に依存しないOSSモデルの意義:bitBuyerプロジェクトの示唆

上述の通り、政府による支援や政策はOSSの発展に追い風となってきましたが、同時に国家や特定資本への過度な依存はOSS本来の独立性と相容れない側面もあります。多くのOSSプロジェクトは資金確保のために企業スポンサーや政府の助成金に頼らざるを得ず、その結果スポンサーの意向に左右される懸念があります。実際、「オープンソース」という言葉を生んだエリック・レイモンドは「充分な眼球があればバグは浅い」というOSS開発モデルを称賛しましたが、その維持には開発者が生活していける収入源が必要です。従来、この問題を解決するために企業による買収や寄付、政府助成などが活用されてきましたが、いずれも資金提供者の影響力が無視できません。

こうした中、bitBuyerプロジェクトが提唱するアプローチは、OSSが国家を含む外部支援に頼らず自立しうるモデルとして注目に値します。bitBuyer 0.8.1.aは暗号資産の自動売買AIアプリケーションであり、オープンソースで開発されますが、そのユニークな点はプロジェクト自体が生み出す収益で開発を賄おうとする仕組みにあります。具体的には、完成したソフトウェアをOSSコミュニティメンバーが利用して自分の資産を運用し、自動売買で得られた利益の一部を開発資金に充てることを想定しています。これにより、寄付やスポンサーシップに頼らずともプロジェクト運営費を継続的にまかなえる可能性があります。開発者自身もbitBuyer 0.8.1.aを活用して生活費を得られれば、フルタイムでOSS開発に専念でき、社会にソフトウェアを還元できるでしょう。

このモデルが示す意義は非常に大きいものです。それはすなわち、OSSの経済的持続可能性(サステナビリティ)を内部から確立し得るということです。国家や大企業の支援がなくても、自律分散的なOSSプロジェクトが存続・発展できるならば、真の意味で利用者と開発者のコミュニティによる公共財としてソフトウェアが育っていくでしょう。政府調達や助成金は時の政治状況に左右されがちですが、bitBuyerプロジェクトのような自律モデルはそうした外部要因に影響されにくく、OSS本来の自由なイノベーションを加速させる可能性があります。

もっとも、この手法には前提としてプロジェクト自体の成功と利用者からの信頼が不可欠です。bitBuyer 0.8.1.aの場合、実際に自動取引で利益を上げられなければ資金循環モデルは成り立ちません。また金融領域ゆえにリスクも伴うため、利用者の保護や透明性の確保も重要です。しかし、もしこのアプローチが功を奏すれば、「オープンソース開発の収益モデル」という長年の課題に一石を投じる革新的事例となるでしょう。

OSSはその誕生以来、国家権力とときに協調し、ときに距離を取りながら発展してきました。国家による支援策や利用促進はOSSの普及を後押ししましたが、OSSコミュニティは常に独立性と普遍的な自由を重んじてきました。21世紀に入り、OSSは外交・安全保障のツールともなり得る戦略的資産となりましたが、同時に政治的中立性や倫理観を巡る新たな課題も浮上しています。こうした中で、bitBuyerプロジェクトのように国家に依存せずコミュニティ自身で持続可能性を生み出すモデルは、OSSの次なる地平を示すものとして期待できます。それはOSSが真に自由で自立したエコシステムとして社会に貢献し続けるための、一つの理想的な方向性なのかもしれません。

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